ここでは、『このミス』大賞の最新受賞作から映画化やドラマ化されたもの、また本格的な不朽の名作や海外の名作まで、かなり幅広く解説してゆきます。15選中、最初の8作はこの10年の近作であり、残る7作は時代を超えたすごい名作をそろえています。

ミステリー小説おすすめ15選
絶対読みたいミステリー小説のおすすめ15選を紹介します。
1:東川篤也『謎解きはディナーのあとで』(2012)
謎解きはディナーのあとでのおすすめポイント3つ
- 初心者向けミステリー小説
- 読みやすく、分かりやすい
- アニメファンにもおすすめ
謎解きはディナーのあとでのレビューと評価
ミステリー小説ビギナーにぴったりの桂作
『謎解きはディナーのあとで』は、嵐の櫻井くん主演でTVドラマにもなった超人気作品です。いわゆるケータイ小説であり、サクサク読めるリーダビリティは抜群です。登場人物がキャラ的な親しみやすさを持ち、アニメファンもすっと入ってゆける世界観です。
タイトルから推理が簡単な印象を受ける人もいるでしょう。しかし、本当に楽勝なのであれば謎解きは朝飯前になり、『謎解きは朝のコーヒーの前に』などというタイトルになっていたでしょう。ディナーのあとにという点に、この小説ミステリーの難しさが込められています。
2:倉井眉介『怪物の木こり』(2019)
怪物の木こりのおすすめポイント3つ
- このミス大賞の最新作
- 悪vs悪の対決
- シリアルキラー
怪物の木こりのレビューと評価
悪と悪がぶつかりあった先にあるものとは
『怪物の木こり』は、2020年に出版された『このミス』大賞の最新受賞作です。正直、このミス大賞受賞作の中にも、平凡な作品は多々あります。しかし『怪物の木こり』は個性的と言う点では、『このミス』の雄と言えるでしょう。
シリアルキラーの弁護士と人の頭を斧でかち割って脳を持ち去る脳泥棒との対決は、やがて脳チップによる人格操作に発展し・・・という大筋はアニメ的なもので、小説の完成度も高いとは言えません。しかし、ミステリー小説初心者には、親しみやすい世界観だと言えます。
3:東野圭吾『沈黙のパレード』(2018)
沈黙のパレードのおすすめポイント3つ
- リベンジ
- ガリレオシリーズ、最新作
- 6年ぶりに日本に帰ってきた湯川学
沈黙のパレードのレビューと評価
東野圭吾ガリレオシリーズ、最新作にして最高傑作
今や日本を代表する作家になった東野圭吾、その最たる人気シリーズが湯川学博士、通称ガリレオが登場する『ガリレオ・シリーズ』です。
本作『沈黙のパレード』は2018年出版の最新作であり、かつ東野ファンの間でもシリーズ最高傑作との呼び声の高い作品です。
数々の殺人事件に関わりながら無罪釈放された男が何者かに殺害された事件をきっかけに、ミステリーが深まってゆくという話です。
これもガリレオ最高傑作と名高い『容疑者Xの献身』では、真相を明らかにすること自体に読者から多くの不満が寄せられました。本作『沈黙のパレード』は、それに応える結末だったと言えるかも知れません。できれば、2作合わせて呼んで欲しいものです。
4:湊かなえ『告白』(2010)
告白のおすすめポイント3つ
- 斬新な構成
- リベンジ
- 傑作映画の原作
告白のレビューと評価
救いのないラストに救われるミステリー
『告白』は、松たか子主演の映画が後世に残る傑作であり、かつ湊かなえによる原作も累計250万部を超える大ベストセラーになったミステリー大作です。
映画も原作も、複数の登場人物によるそれぞれの語りを連ねた構成になっています。1つの出来事を多様に見せて、真実を相対化するという点で、芥川龍之介の古典『藪の中』をも思わせます。
救いのないラストには思考喚起力があり、全般的にミステリー以上に文学性を感じさせる傑作です。
5:綾辻行人『Another』(2012)
Anotherのおすすめポイント3つ
- アニメ好き
- 学園ホラー
- 殺人アート
Anotherのレビューと評価
美少女が巻き起こす恐怖とミステリーの大渦
まず、海外小説のペーパーバックのようなセンスのいい表紙が目を引きます。上下巻を横に合わせると少女の顔がつながって本棚のインテリアに役立つ一品にもなるでしょう。
本作『Another』は、ミステリーの大家、綾辻行人の異色のホラーミステリーであり、謎解きの牽引力と共に映像喚起力のあるシーンが魅力的です。
学園ホラーに合ったアニメキャラっぽい人物たちは小説初心者にも受け入れやすいはずです。何でもありのホラーでしか成しえないミステリーを味わいたい方にはぜひ読んでほしい作品です。
6:浦賀和宏『彼女は存在しない』(2012)
彼女は存在しないのおすすめポイント3つ
- リベンジ
- 多重人格
- 大どんでん返し
彼女は存在しないのレビューと評価
人格という不確かな存在
『彼女は存在しない』というタイトル通りのミステリーであり、ラストに最も確実に存在していると思われた者が、実は存在しなかったということが分かるものです。
軸になるのが多重人格であり、ヒロインは何人もの人格になりすましています。なりすましというものの底知れぬ不気味さを、本作ほど深くえぐりだしたミステリーは他に中々ありません。
謎解きには甘い部分もありますが、精神病者を通して人間の暗部に光を当てる重厚な作品です。
7:早坂吝『○○○○○○○○殺人事件』(2014)
○○○○○○○○殺人事件のおすすめポイント3つ
- お馬鹿ミステリー
- エロミステリー
- ライトノベル
○○○○○○○○殺人事件のレビューと評価
ミステリーで笑いを取る斬新さ
エロマンガのような表紙と、○ばかりのタイトルが目につく小説です。それで分かるよう、本作は“お馬鹿ミステリー”とも呼べるものです。本格派が好きな方も、たまにはこういうコメディで息抜きすればいいんじゃないでしょうか。
犯人候補が皆ヌーディストだったため、殺人事件に使われた凶器のアイスピックの隠し場所が限られるという点が、コメディの発火点になっています。後の大体の展開は誰でも想像がつくでしょう。そして、最後まで読めば、タイトルの○に何が入るのか、きっと分かるはずです。
8:森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』(2010)
ペンギン・ハイウェイのおすすめポイント3つ
- こどもたちのファンタジー
- 神童少年
- アニメ化作品
ペンギン・ハイウェイのレビューと評価
お姉さんが作るペンギンと海と世界
『ペンギン・ハイウェイ』は最近、アニメ化もされた人気作品です。とてもシュールなミステリーであり、現実的な謎解きよりも、哲学的な探求を与えてくれる小説だと言えます。
小学生の少年語りが軸になり、少年がペンギンを作り出すお姉さんに恋をしたことから、トンデモ話が展開してゆきます。
普通のミステリーのように受け身で読んでいては謎は解けません。お姉さんやペンギンや海は何なのか、そういう読者の自発的で本質的な思考があって初めて、本書は輝きを放つものだと言えます。
9:森博嗣『すべてがFになる』
すべてがFになるのおすすめポイント3つ
- 孤島の密室ミステリー
- 狂気の天才博士
- 大どんでん返し
すべてがFになるのレビューと評価
『このミス』大賞の記念すべき初受賞作
『すべてがFになる』は、長年、日本のミステリー小説を牽引し続ける『このミス』大賞の初受賞作になり、その栄誉に充分に値する作品だと言えます。
孤島の研究所で起きた猟奇殺人が軸になり、最終的に驚くべき真犯人が現れます。ミステリー最大の驚きの1つに、絶対に存在しない人が犯人だったというものがあります。本作はそこを見事に突いています。
『すべてがFになる』というタイトルは、完全に密室だった場所が、1分だけ不完全になったときのことを意味します。しかもそれはコンピューターの完全性ゆえにできた不完全性でした。これはAIの未来社会への警鐘にもなりうることしょう。
10:宮部みゆき『火車』
火車のおすすめポイント3つ
- 突然、失踪したフィアンセの謎
- 忌まわしい過去
- なりすまし
<h4火車のレビューと評価
過去を消した女が示す非情な現代社会
結婚間近の男がフィアンセの突然の失踪によって、天国から地獄に落とされることを起点にしたミステリーです。失踪した女は親の借金によって債務奴隷という負の宿命を背負わされており、どれだけ逃げても逃げ切れません。
『火車』は松本清張作品にも通ずる社会派ミステリーであり、いくつかの文芸雑誌で平成の30年間の名作小説の1つにも選ばれるほどの作品でもあります。
著者、宮部みゆきは、本作で魅力的なミステリーを組み立てながら、現代社会の最も暗い部分に光を当てることにもみごとに成功しています。
11:貴志祐介『青の炎』
青の炎のおすすめポイント3つ
- 青春小説
- 義父のDV
- 少年の完全犯罪
青の炎のレビューと評価
燃えすぎた少年の怒りの炎
17歳の男子高校生が、突然、現れて母に乱暴した元義父を殺し、それを完全犯罪に仕組もうとするというのが大筋です。
少年の殺害に合理的な理由がなかったため、共感できなかったという読者の声が多い作品でもあります。しかし、そんな1人よがりの衝動こそ、青春の過ちというものではないでしょうか。一度、怒りに身を任せれば、それはいずれ身を滅ぼすことにもなる。
『青の炎』は、ミステリーながらそんな青春の根源にも迫る切実な文学性を秘めています。
12:北村薫『空飛ぶ馬』
空飛ぶ馬のおすすめポイント3つ
- ほのぼのミステリー
- 日常ミステリー
- 幸福なミステリー
空飛ぶ馬のレビューと評価
すぐそこにある、ありふれたミステリー
『空飛ぶ馬』は、北村薫の短編集の表題作です。昼間、ある男がサンタに扮し、幼稚園の園児たちに木馬をプレゼントします。が、その日の夜にだけその木馬が消えていたという謎が示されます。
普通にあるようでいてないような、そういう日常ミステリーとも言える点を突いたのが本作の斬新さだと言えます。謎と同じく真相もまた、ほのぼのしたものであり、とても幸福な読後感を得られるはずです。
13: 乾くるみ『イニシエーション・ラブ』
イニシエーション・ラブのおすすめポイント3つ
- 大どんでん返し
- ラブストーリー
- 二股もの
イニシエーション・ラブのレビューと評価
盲点を思い切り突かれるミステリー
『イニシエーション・ラブ』は、多くの芸能人から賞賛されたことでも有名なミステリーで、近年、松田翔太主演で映画化もされています。
別れや二股ありのありふれたラブストーリーなのですが、最後の数行で一気にミステリー小説化します。ミステリーであること自体を隠したミステリーなので、前情報を一切持たない読者は、ほぼ間違いなくだまされることでしょう。
昔のカセットテープのようにA面とB面に分かれている構成が最大のヒントになります。物事は表面的に流れているようでいて、実は同時にその裏でまったく別の流れ方をしていることもある。そんな哲学的な解釈をもさせる奥深い作品です。
14:村上春樹『羊をめぐる冒険』
羊をめぐる冒険のおすすめポイント3つ
- 村上春樹、初の長編小説
- 文芸性の高さ
- シュールなミステリー
羊をめぐる冒険のレビューと評価
カワイくて恐ろしい羊の物語
村上春樹の長編小説の多くは、ミステリー色のあるものです。しかし、初長編となる『羊をめぐる冒険』ほどミステリーをしっかり作りこんだ作品は他にないと言えます。
とはいえ、この作品もハルキ文学らしい不条理ミステリーであり、普通の謎解きは期待できません。人間に乗り移ってその人の人生を大きく変えてしまう羊がいると設定だけで、ついてこれない人もいるでしょう。
しかし羊というのはメタファーであり、何らかの抽象性をふくんでいるという具合に主体的な思考をする読者には実り多い読書体験になるはずです。また、他の大多数のミステリーと違い、一文一文に読み応えがあるのも大きな魅力です。
15:カズオ・イシグロ『わたしを離さないで~Never Let Me Go』
わたしを離さないで~Never Let Me Goのおすすめポイント3つ
- クローン人間
- 臓器提供
- 希望なき若者たち
わたしを離さないで~Never Let Me Goのレビューと評価
クローン人間たちの悲劇が映し出す現代社会の闇
今やノーベル賞作家となったカズオ・イシグロの代表作が『わたしを離さないで』です。イギリスで映画化され、日本でも綾瀬はるか主演でTVドラマ化された作品でもあります。
ヒトへの臓器提供のために集団生活をさせられるクローン人間たちの青春を描いたもので、ミステリーも牽引力となりながら、高い文学性をも持っています。
クローンの若者たちに、自分と同じ宿命を感じる読者は多いことでしょう。まったく希望の持てない世界の中で、なぜわたしたちは生きてゆかねばならないのか。この根源的な問いに真正面から切り込んだ不朽の名作です。
絶対読みたいミステリー小説の重要ポイントまとめ
この記事で重要なポイントは以下の3つです。
- ここ10年の近作を数多くピックアップしました
- 古典ミステリーといえる不朽の名作もあります
- 広義のミステリーとして選び、他のジャンルも混ざった作品もあります