「難しい」とされる科学的な知識が必要なハードSFとして『シルトの梯子』、もう1つのありえたかもしれない現実を描くオルタナSFとして『希望の国のエクソダス』や架空戦記ものも見てゆきます。
筒井康隆のあの泣ける短編の名作やアンドロイドもの、SFミステリーまで幅広く解説します。どれか一作でもあなたの本棚に加わるものが紹介できれば幸いです。

SF小説のおすすめ15選
おすすめのSF小説をご紹介します。
『すばらしい新世界』オルダス・ハクスリー(著)
すばらしい新世界〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫) の仕様・製品情報
作者 | オルダス・ハクスリー |
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発売日 | 2017/1/7 |
出版社 | 早川書房 新訳版 |
ページ数 | 384ページ |
すばらしい新世界のおすすめポイント3つ
- ディストピア小説
- 恐るべき機械文明
- ブラック・ユーモア
すばらしい新世界のレビューと評価
未来は便利になればそれでいいの?
本作『すばらしい新世界』は次に紹介する『1984年』と共に、SFディストピア小説の最高傑作とされる小説です。
ディストピアとは楽観的な未来を描くユートピアと真逆のものであり、本作の未来世界もまた暗いものです。機械文明が極まった中、大いなる利便性を手に入れた人々は一見ハッピーに暮らしているように見えます。
しかし社会からも人間の心からもあらゆるネガティブなものが消え去った世界は、どんどん空虚なものになってゆきます。すばらしいストーリー進行で、人生におけるアンビバレンスの価値を訴える傑作小説です。
『1984年』ジョージ・オーウェル(著)
一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫) ペーパーバックの仕様・製品情報
作者 | ジョージ・オーウェル |
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発売日 | 2009/7/18 |
出版社 | 早川書房 |
ページ数 | 512ページ |
1984年のおすすめポイント3つ
- ビッグ・ブラザー
- ディストピア
- 一党独裁国家の恐怖
1984年のレビューと評価
ビッグ・ブラザーは今も私たちの前に君臨する
『1984年』というタイトルよりも、ビッグ・ブラザーという言葉の方を聞いたことがあるという人が多いでしょう。
ビッグ・ブラザーとはアメリカを始めとした西欧諸国では横暴な権力者の代名詞として今もよく使われる言葉です。架空の人物でありながらヒトラーに次いで有名な独裁者だといえます。
『1984年』ではビッグ・ブラザーによる独裁政権が体制維持のために人々を限りなく無知無能にしてゆくさまが描かれています。
これは決して絵空事ではなく、世界は今もビッグ・ブラザーを笑い飛ばすことができません。公文書改ざんによって歴史を変える主人公の姿を見れば、多くの日本人も決して他人事ではないと思うことでしょう。
『幼年期の終わり』アーサー・C・クラーク(著)
幼年期の終わりのおすすめポイント3つ
- 宇宙人の人類啓蒙
- 哲学SF
- SFミステリー
幼年期の終わりのレビューと評価
宇宙人が突きつけた人類の幼さ
地球の上空にとてつもなく大きな宇宙船が現れます。それに乗ったオーヴァーロードと呼ばれる宇宙人が一体何のためにやってきたのかという謎が、第一部を引っ張ります。
第二部、第三部に移り、オーヴァーロードが愚かな人類を救うためにやってきたことが明らかになり、さらにオーヴァーマインドというより高次の存在まで現れます。
作品を通じて、未だ人類が「幼年期」にあるという真実が突きつけられます。物質ではなく人間の心の進歩を扱ったSF小説として、『幼年期の終わり』は類希な輝きを放っています。
『シルトの梯子』グレッグ・イーガン(著)
シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF) 新書の仕様・製品情報
作者 | グレッグ・イーガン |
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発売日 | 2017/12/19 |
出版社 | 早川書房 |
ページ数 | 505ページ |
シルトの梯子のおすすめポイント3つ
- ハードSF
- 科学SF
- 新たな次元を作り出す
シルトの梯子のレビューと評価
時空を巡る人類の内乱
著者のグレッグ・イーガンはハードSF系作家の中でも特にハードだといわれる作家であり、難しい小説が苦手だったりSF初心者だったりする人は敬遠した方がいいでしょう。
『シルトの梯子』の舞台は何と2万年後、新たな時空を生み出せるようになったことで、人類はその時空に生存領域を脅かされるようになり、その譲渡派と防御派によって内部対立を起こすようになります。
この複雑な筋に加え、理数系の知識がハンパなく飛び出してきます。しかし何となく読んでも楽しめるのがイーガンの不思議な作風でもあり、ハードルはそれほど高くありません。
『星を継ぐもの』ジェイムズ・P・ホーガン(著)
星を継ぐもの (創元SF文庫) 文庫の仕様・製品情報
作者 | ジェイムズ・P・ホーガン |
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発売日 | 1980/5/23 |
出版社 | 東京創元社 |
ページ数 | 309ページ |
星を継ぐもののおすすめポイント3つ
- ハードSF
- 500万年前の死体の謎
- 壮大なSFミステリー
星を継ぐもののレビューと評価
500万年を超えた死体ミステリー
ジェイムズ・P・ホーガンもまたグレッグ・イーガンと共にハードSF作家の第一人者と呼ばれる存在です。
理数系中心のアカデミックな知識が膨大に出てくる作品ですが、SFミステリー仕立てであり読み物としても楽しめます。
月で発見された500万年前の人間の死骸をさまざまな学者が調べるうちに、次々と謎が出てくるという展開は目を引きます。その意味で根本的には犯罪ミステリーと同じ魅力を持っているといえるでしょう。
『果てしなき流れの果に』小松左京(著)
新装版 果しなき流れの果に (ハルキ文庫) 文庫の仕様・製品情報
作者 | 小松左京 |
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発売日 | 2018/6/13 |
出版社 | 角川春樹事務所; 新装版 |
ページ数 | 437ページ |
果てしなき流れの果にのおすすめポイント3つ
- 壮大な歴史SF
- 日本のSF小説の最高傑作
- 哲学SF
果てしなき流れの果にのレビューと評価
「人類とは何か?」の問いは10億年の時空を超えて
筒井康隆と並んで日本のSF作家を代表する人物としてあげられるのが小松左京です。そして本作『果てしなき流れの果に』は、長く日本のSF小説の中で最高傑作だと称えられるものです。
十億年単位の時間が流れる壮大なSF大作であり、人類文明とは何かという哲学的なテーマを持っています。一方でラブロマンスもあり、人間ドラマとしても魅力的な作品です。
ハードルは高めですが、でっかいスケールの物語が読みたいという人にはピッタリの本です。
『時をかける少女』筒井康隆(著)
時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫) 文庫の仕様・製品情報
作者 | 筒井康隆 |
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発売日 | 2006/5/25 |
出版社 | 角川書店; 新装版 |
ページ数 | 238ページ |
時をかける少女のおすすめポイント3つ
- 世代を超えたSF小説の名作
- 世代を超えた映画化、アニメ化作品
- 泣けるラブロマンス短編
時をかける少女のレビューと評価
あの『時をかける少女』の原点がここに
日本のSF小説として『時をかける少女』ほど有名な作品は他にないでしょう。1980年代に映画化されて以降、21世紀をとっくに超えた今も本作はさまざまな形でメディアミックスされています。その意味で、この小説自体が「時をかける小説」だといえます。
その原作がどういうものなのか、好奇心がわく人は多いはずです。筒井康隆による本作はすぐに読みきれる短編です。そして、なぜラベンダーの匂いをかぐとタイムリープするのかということなど、根本的な設定がちゃんと書かれています。
超能力というものが元々人間に備わった能力だという逆転の発想は、どれだけ時をへても斬新なアイデアとして輝き続けています。
『ボッコちゃん』星新一(著)
ボッコちゃん (新潮文庫) 文庫の仕様・製品情報
作者 | 星新一 |
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発売日 | 1971/5/25 |
出版社 | 新潮社; 改版 |
ページ数 | 352ページ |
ボッコちゃんのおすすめポイント3つ
- ショート・ショート
- 星新一の自薦・代表作
- 50編の短編集
ボッコちゃんのレビューと評価
早く読めて、じっくり考えさせる星新一作品
ショート・ショート、つまり超短い短編SF小説の名手として知られるのが星新一です。中には2~3ページという短編もあるので、小説の初心者にとって最初に手にする本としてはピッタリといえます。
『ボッコ』ちゃんは星新一の短編集の中でも最も人気や評価の高い作品ばかりを50作、星自身が自薦する形で収録したものです。
表題作ボッコちゃんはロボットの女性ウェイターを描いたものです。ブラックユーモアにあふれたオチには現代社会への風刺も入っています。星作品は早く読めますが、それぞれに深いテーマがあるので深い余韻を味わえます。
『異史・新生日本軍 朝鮮戦争、参戦!』羅門祐人(著)
異史・新生日本軍 朝鮮戦争、参戦! (RYU NOVELS) 新書の仕様・製品情報
作者 | 羅門祐人 |
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発売日 | 2016/12/16 |
出版社 | 経済界 |
ページ数 | 208ページ |
異史・新生日本軍 朝鮮戦争、参戦!のおすすめポイント3つ
- 架空戦記
- オルタナSF
- 戦争小説
異史・新生日本軍 朝鮮戦争、参戦!のレビューと評価
アメリカの凋落の始まりは朝鮮戦争にあり
SFの中には、もしかしたらこうなっていたかもしれないというもう1つの現実を描くオルタナSFというジャンルがあります。本作『異史・新生日本軍 朝鮮戦争、参戦!』もその1つであり、架空の戦争を描いた作風から「架空戦記」とも呼ばれます。
第二次世界大戦後、1950年の朝鮮戦争にもし日本軍がアメリカ軍の「在日米軍予備隊」として参戦していればどうなっていたかというのが大筋です。
著者・羅門祐人は、第二次世界大戦以降、アメリカがすべての戦争でちゃんと終結させられなかった理由を本作で探っていると語っています。架空戦記の中だからこそ、それは信憑性を持つものになるのかもしれません。
『希望の国のエクソダス』村上龍(著)
希望の国のエクソダス (文春文庫) 文庫の仕様・製品情報
作者 | 村上龍 |
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発売日 | 2002/5/10 |
出版社 | 文藝春秋 |
ページ数 | 452ページ |
希望の国のエクソダスのおすすめポイント3つ
- オルタナSF
- 中学生たちの反乱
- 不登校児たちのコミュニティ
希望の国のエクソダスのレビューと評価
IT中学生たちの日本脱出
本作『希望の国のエクソダス』も、もう1つの現実を描くオルタナSFです。21世紀初頭、もし日本の中学の不登校児たち80万人が結束し、ネットビジネスを通じてコミュニティを作っていったらどうなるのかというのが大筋です。
大人たちは子どもの反乱だと騒ぎますが、当の中学生たちは大人は反抗するにも値しない存在だと眼中にさえ入れていません。日本の構造的な教育・社会問題を浮き彫りにするストーリーは、21世紀をとっくに過ぎた今読んでも痛切に感じられます。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック
アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229)) 文庫の仕様・製品情報
作者 | フィリップ・K・ディック |
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発売日 | 1977/3/1 |
出版社 | 早川書房 |
ページ数 | 336ページ |
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?のおすすめポイント3つ
- 映画『ブレードランナー』の原作
- フィリップ・K・ディックの代表作
- アンドロイド狩り
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?のレビューと評価
アンドロイドを巡る人間ドラマ
フィリップ・K・ディックは、世界のSFファンが選ぶ史上最高のSF作家として有名な人です。
火星で奴隷労働させられていたアンドロイド8人が地球に逃げてきたため、主人公がその8人を狩る賞金稼ぎのハンターになるというのが大筋です。
一見ただのアクション映画のようですが、ディックは人物造形に優れたドラマ作家でもあります。そのため傑作と評される映画『ブレードランナー』と同じように感動を味わえる作品にもなっています。
『ユービック』フィリップ・K・ディック(著)
ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314) 文庫の仕様・製品情報
作者 | フィリップ・K・ディック |
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発売日 | 1978/10/1 |
出版社 | 早川書房 |
ページ数 | 324ページ |
ユービックのおすすめポイント3つ
- 世界一のSF小説
- 時間の退行現象
- 虚実混交
ユービックのレビューと評価
あらゆる境界は存在しない!?
海外のSFファンにとって本作『ユービック』は、フィリップ・K・ディックの最高傑作であるばかりか史上最高のSF小説としても位置づけられている作品です。
ディックの一貫したテーマは境界を超えることにあり、本作でも生と死、現実と妄想、過去と現在などが隔たりなく融合してゆきます。そしてすべてがごちゃ混ぜになった中、1つの真実が浮かび上がります。
今そこにある現実は果たして本当に存在しているのか。ディックの作品は常に読者へそう問いかけてきます。
『完全なる首長竜の日』乾緑郎 (著)
【映画化】完全なる首長竜の日 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) 文庫の仕様・製品情報
作者 | 乾緑郎 |
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発売日 | 2012/1/13 |
出版社 | 宝島社 |
ページ数 | 313ページ |
完全なる首長竜の日のおすすめポイント3つ
- 『このミステリーがすごい大賞』受賞作
- 映画化作品
- 虚実混交ストーリー
完全なる首長竜の日のレビューと評価
終盤に何もかもがひっくり返る
『このミステリーがすごい大賞』の選考委員全員が認めたということで知られるのが本作『完全なる首長竜の日』です。
女性漫画家がSCインターフェースという技術で、自殺未遂後にこん睡状態に陥った弟とコンタクトを取り続けるというのが大筋です。その舞台は現実とも夢ともいえない心の中です。
著者・乾緑郎もいう通り、『ユービック』の影響も受けた驚きの大転換は人間存在や実在することへの深い問いを投げかけます。SFミステリーとして伏線もしっかりしており、ドラマとしても読める味わい深さもあります。
『われはロボット』アイザック・アシモフ(著)
われはロボット〔決定版〕アシモフのロボット傑作集(ハヤカワ文庫 SF)文庫の仕様・製品情報
作者 | アイザック・アシモフ |
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発売日 | 1980/5/23 |
出版社 | 早川書房; 決定版 |
ページ数 | 309ページ |
われはロボットのおすすめポイント3つ
- いろんなロボットたち
- 人間を超えるロボット
- 哲学SF
われはロボットのレビューと評価
ロボットたちの観察日記
ロボットの心理学者が引退するに当たり、これまで出会ったロボットたちを回想するという物語設定がまず目を引きます。
愚かな人間に仕えることに不満を持つロボットなど、さまざまな性格を持つロボットが描かれます。その中で人とロボットの関係はどうあるべきか、またその境界を超えて素晴らしい存在とはどういうものかということを考えさせてくれます。
表紙のロボットのイラストがカワイイので、ジャケ買いで本棚インテリアにしてもいい本です。
『ヴィーナス・プラスX』シオドア・スタージョン(著)
ヴィーナス・プラスX (未来の文学) 単行本の仕様・製品情報
作者 | シオドア・スタージョン |
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発売日 | 2005/5/1 |
出版社 | 国書刊行会 |
ページ数 | 305ページ |
ヴィーナス・プラスXのおすすめポイント3つ
- 突然、異世界ストーリー
- ノン・ジェンダーの世界
- ユートピアSF
ヴィーナス・プラスXのレビューと評価
男性・女性意識がもたらす現代社会のゆがみ
『ヴィーナス・プラスX』は目覚めるとそこは完全なる別世界だったという、昨今のラノベで大流行の異世界転生ものとも通じ合う作風です。
そこには両性具有のレダム人たちがいて、主人公のチャーリーに人間の目でレダムの文明を評価してほしいと頼みます。男性・女性というジェンダー縛りのないレダム世界は、チャーリーの目にとても魅力的に映ります。
一方、平行して描かれるアメリカ人の日常生活では女の子の赤ちゃんでもビキニを着せられるほどにジェンダーが徹底しています。
ユートピアともいえるレダムの中で、ジェンダーというものがいかに世の中を荒廃させているかが痛切に訴えられます。ストーリーとしても二転三転あり、とても楽しめます。