一方で、星さんは、文学賞には恵まれなかったものの、天才的な偉業を残した作家でもあります。教科書や全集、青空文庫などの彼の作品は今でも多くの人に愛されています。
ここからは子ども目線で見た、星新一おすすめ作品を紹介していきます。
宙目(ユマ)ケン
2010年『カミナリラヴァー』(幻冬舎)で小説家デビュー。
作家・星新一の最もすばらしい点はやはりショートショートというスタイルではないでしょうか。
そこには彼の作品の多くのテーマにも通じる近未来への鋭い洞察力があると感じます。
配信動画やサブスク全盛期の今、文化コンテンツは一瞬ごとに消費されてゆきます。
星新一はそんな未来にも生き残れる小説としてショートショートを追求したのかもしれません。



目次
星新一とは
星新一は、1926年、現在の東京都文京区で生まれました。母の兄が有名な小説家、森鴎外であることから星さんは鴎外の甥っ子になり、かなり文学的な家系だったと言えます。
東京大学の農学部に進み研究者の道を歩んでいましたが、父親が早世したために父の製薬会社を継ぐことになります。
1957年、星さんが31歳のとき、日本発のSF雑誌「宇宙塵」を創刊し、その中の作品が評価されて作家デビュー。その後は71歳で亡くなるまで、小松左京、筒井康隆と並んで日本SF御三家と呼ばれるほどの活躍を見せました。
星さんの小説ジャンルはSFショートショートです。文字通りとても短いSF作品のことであり、中にはたった1ページの作品もあるほどです。
ほとんどが空想的で短い小説だったので、子ども向け作家だとも見られていました。しかし、多くの作品には普遍的で文学的なテーマもあります。そのため、時代を超えて大人たちからも愛される作家になったと言えます。
一方、星さんの小説では、ほとんどハッピーエンドがありません。人間や世の中の暗い面、見たくない面を最後に明らかにするような作風です。小中学生の子たちには、キツイ内容もあるかも知れません。
しかし、若いうちから物事の裏を見たり多様な視点を持ったりすることは、とても大切なことです。若いころに星さんの作品を読めば、きっと柔軟な考えや真新しい感性を持った大人になれるでしょう。
ショートショートとは
ショートショートとは長くても10ページ、短ければ2ページほどで終わる最も短い小説のジャンルです。そのためほとんどのショートショートは小説初心者の方でも1編を5分以内で読み終えられます。
星新一は日本では「ショートショートの神さま」と呼ばれるほどこのジャンルを代表する作家です。彼の作品の多くで見られるよう、ショートショートは斬新なアイデアから生まれるものなのでSFやファンタジーがほとんど。
マンガのように小説も一気読みしたい、読書習慣をつけたい、創作アイデアが欲しいという方にショートショートはおすすめです。
ライターが選んだ星新一作品おすすめの話
ライターが選んだ星新一作品おすすめの話3つの種類を解説します。
- ブランコのむこうで(長編)
- 鍵(ショートショート集「妄想銀行」に収録)
- おーい でてこーい(ショートショート集「ボッコちゃん」に収録)
ブランコのむこうで(長編)
変な夢を見た小学生のぼくは、学校帰りに自分と同じ顔をした少年に遭遇する。正体を突き止めようとするが、なぜか人の夢から夢へジャンプする妄想世界に入り込んでしまう…。
そんなシュールとも言える話ですが、夢と現実が深く結びつく展開は分かりやすく共感もしやすいでしょう。
小学生の一人称なので、子どもさんでも読める絵本のような文体であるのも大きな魅力。
夢と現実が境界なく交じり合う不思議な世界に好奇心がわく方におすすめです。
鍵(ショートショート集『妄想銀行』に収録)
男はあるとき道でたまたま拾った鍵にあう部屋の鍵穴を探すが、当然そう簡単には見つからない。そして年月が過ぎ、ある方法で鍵にあった鍵穴を開けると、女神様が出てきて何でも願いを叶えてくれるという。
そこで男は驚きの言葉を口にする、という終盤以外はSF要素なしの話です。
「鍵」は星新一のショートショートの中でも地味な作風ながらコアなファンから人気を集めている作品です。
夢を追いかけるという事がどういうことなのか、シンプルで明快な人生訓を知りたい方におすすめです。
おーい でてこーい(ショートショート集「ボッコちゃん」に収録)
台風一過の村で謎の穴が発見され、村人が「おーい、でてこーい」と呼んでも中からは返事がない。そのうち何でも捨てられる底なし穴だと勝手に思い込み、都会から要らなくなったものが集まるようになる。大量のゴミ、原発の放射性物質、官僚の機密書類などなど穴は都会の人たちのためのゴミ捨て場になってしまう。
そしてラストに痛快かつ痛切な大転換が待っているという話です。
環境問題とのリンクだけではなく、因果応報・自業自得という倫理観をブラックユーモアたっぷりに教えてくれます。
一気読みできるショートショートの中でもずっと心に残るような深いテーマの名作を読みたいという方におすすめです。
【ショートショート】星新一作品のおすすめ10選
おすすめの【ショートショート】星新一作品を紹介します。
すこしふしぎ傑作選
最初に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「すこしふしぎ傑作選」です。
- 妖精の表紙がカワイイ
- 何でも叶える妖精が、ひとクセあってオモシロい
- 嫉妬(しっと)について考えるキッカケを与えてくれる
すこしふしぎ傑作選のレビューと評価
カワイイ妖精が光を当てた少女のこころの中の闇
『すこしふしぎ傑作選』は、小さな子どもたちでも手にしやすい小説です。表紙にカワイイ妖精が窓辺に座る絵があるので、本棚に飾るだけで満足できる一品にもなることでしょう。
表題作の『妖精』では、何でも願いを叶えてくれる妖精が少女ケイの前に登場します。子どものときなら誰でも1度は想像する出来事です。
しかし、この妖精は変わり者で、ケイの願いを叶えると、ライバルのアイにはその倍の願いを叶えるといいます。ケイが幸福になりたいと願えば、アイはその倍、幸福になるということです。そこで最後にケイが妖精に言った願いとは何なのか。
テーマは子ども心にも芽生えがちな嫉妬、ねたみです。最後はとても暗い終わり方ですが、子どもたちに嫉妬から自由になってほしいという作者の願いが込められているように思われます。
気まぐれロボット
次に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「気まぐれロボット」です。
- ネコが主人公
- ネコと宇宙人のありえない会話
- 逆転の発想を生かした物語
気まぐれロボットのレビューと評価
ネコと宇宙人、まさかの遭遇
『気まぐれロボット』の短編集の中で、特におすすめなのが『ネコ』です。一匹のネコが主人公なので、多くの子どもたちがスイスイ読み進められるはずです。
突然、宇宙人がやって来て、ネコと飼い主の前に現れます。そこで飼い主が気絶してしまい、ネコの方は宇宙人に「人間は自分の世話をする奴隷だ」と言います。
そのため宇宙人はネコこそ地球の支配者だと思い、さまざまな質問をします。果たしてネコは地球の生き物の代表として、宇宙人に気に入られるのでしょうか。発想の逆転が効いた短編です。
ボッコちゃん
次に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「ボッコちゃん」です。
- 美人ロボットが勤める人気バー
- あっと驚く、衝撃のクライマックス
- 何でも捨てられる便利な穴があったなら
ボッコちゃんのレビューと評価
美人ロボットとゴミ穴の大いなる復讐
『ボッコちゃん』は星新一の短編集の中でも、一般的に最も評価されているものです。また星さん自身が気に入った作品を選んだ自薦集でもあります。
『ボッコちゃん』はバーで働く美人ロボットで多くのお客さんに愛されます。しかし最後には復讐とも取れる衝撃の展開が待っています。若い女の子を使ってボロもうけしている男たちは今の時代にもいて、テーマに普遍性があります。
『おーい、でてこーい』もおすすめです。いらなくなったり害があったりするものを無責任に捨ててゆくと、その先に何が待っているのか。後のことを考えて捨てることの大切さを教えてくれます。
妖精配給会社
次に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「妖精配給会社」です。
- カワイイ妖精たちの繁殖
- ユートピアがディストピアに
- 忖度(そんたく)の悪をうったえる
妖精配給会社のレビューと評価
忖度する妖精たちが築き上げた世界とは
『妖精配給会社』は、多くの人が夢見るユートピアが悪夢に変わるような話です。地上に妖精が現れ、どんどん繁殖し、人類のお気に入りになってゆきます。
妖精たちは本当に優しくて、主人のやることなすことすべてホメてくれるからです。しかしそのために世界中で結婚する人が減ってゆき、家族の仲も壊れてゆきます。
優しい妖精たちの一体、何が悪いというのか。妖精たちの態度には今世間をにぎわせている“忖度”にも通じるものがあり、正直さの大切さが伝わってきます。
午後の恐竜
次に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「午後の恐竜」です。
- 恐竜たちの大いなる謎かけ
- 突然、非日常の世界に投げ込まれる話
- 地球の歴史ロマン
午後の恐竜のレビューと評価
恐竜たちが見せてくれた地球の壮大な記憶
『午後の恐竜』は、1つの大きなナゾによって最後まで読む人を引っ張ってくれるような作品です。男が目覚めると外に恐竜がいて、ニュースによると世界中で同じことが起こっているという。
恐竜は3D映像のようにアチコチにいるだけで、実在していません。すべては男だけが見る幻なのか、それとも人類全体が見る夢なのか。
もし人間が死ぬように地球も死んでゆくのなら……。この発想は大胆であると共に、どこか真実味もあって、思わず信じ込まされてしまいます。
ようこそ地球さん
次に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「ようこそ地球さん」です。
- 究極の選択
- 極限状況における人間の心理
- 生か死かハラハラどきどきの物語
ようこそ地球さんのレビューと評価
極限状況における究極の選択が物語る人の運命
『ようこそ地球さん』の短編集で特におすすめなのが『処刑』です。悪人がその罰として、ボタンつきの装置を持たされて砂漠の星に送られます。ボタンを押せば水が出るか、爆発するか、どちらになるのかは分からない。
それでも悪人は生き延びるためにボタンを押さざるを得ません。読んでゆくうちに誰もが背負わされた運命のようにも感じられます。
人生の中で下す多くの決断は、それが自分を生かすものなのか殺すものなのか、どちらかは分かりません。深い余韻を残す作品です。
悪魔のいる天国
次に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「悪魔のいる天国」です。
- 何でも願いを叶える魔法もの
- マジメな人への皮肉
- 理解を超えたものの大切さ
悪魔のいる天国のレビューと評価
願いを叶えてくれる魔人を飲み込んだ、博士の心の中の闇
『悪魔のいる天国』の短編集の中でおすすめなのが『合理主義者』です。
ある博士はツボに閉じ込められていた古代アラビアの魔人を出したことで、魔人から何でも願いを叶えてもらえるようになります。
しかし、博士は魔法などまったく信じない合理主義者であり、最後の最後に驚くべき願いを叶えてもらえます。
この世には頭で理解できないものも確かに存在する。そんな子どもらしい純真さを称えるような読後感を与える作品です。
マイ国家
次に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「マイ国家」です。
- マイホームをマイ国家にした男
- 国というお宅に閉じ込められた男
- 二重の悲劇
マイ国家のレビューと評価
国家の狂気をマイホームに持ち込んだ男
『マイ国家』は、「そもそも国って何なの?」と疑問を持つ小中学生にピッタリの短編でもあります。
マイ国家がマイホームだったら、どうなるのか。このアイデアを軸に話はとんでもない方向に向かってゆき、最後にはある二重の悲劇が起こります。
国がやっていることと同じことを個人がすれば一体どうなるのか。国について明るいことばかりを学んでいる子どもたちには、いい刺激になること間違いありません。
ノックの音が
次に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「ノックの音が」です。
- 謎の女のミステリー
- 精神病者の心理
- 視点の大転換
ノックの音がのレビューと評価
突然、家にやって来た謎の女が見せた真実
『ノックの音が』の短編集の中でおすすめなのが、『謎の女』です。ある男の部屋にいきなり知らない女が入ってきて、まるで昔からいたかのように図々しくふるまいます。もちろん男はそれに怒るのですが、最後には驚くべき大転換が起こります。
1つ見方を変えただけで、世界がこうも違って見えるものなのか。さまざまなことを解決する上でもカギとなるテーマがここにあります。
妄想銀行 (新潮文庫)文庫
次に紹介するおすすめの【ショートショート】星新一作品は、「妄想銀行 (新潮文庫)文庫」です。
紙の本のページ数 | 352ページ |
---|---|
Kindleのファイルサイズ | 1240kb |
ジャンル | 32編のショートショート |
出版社 | 新潮社 |
紙の本の初版年 | 1978年 |
- ショートショートの名手・星新一の生涯ベスト10作の常連で代表作の1つ「妄想銀行」収録
- 人生で本当に大切なことをシンプルに教えてくれr知る人ぞ知る名作「鍵」も収録
- 352ページと長めのショートショート短編集であることから毎日1編ずつ読めば1か月ほどの読書習慣が身につく
「妄想銀行 (新潮文庫)文庫」の特徴
一気読みしやすい星新一のショートショート短編集の中、大人も読みごたえのある短編が数多く掲載されています。
人の妄想を預けたり引き出したりできる「妄想銀行」を通じて、多くの読者は人の心の奥底をのぞき見れるはず。
序盤にある「大黒さま」は読者をブラックな笑いに包みながら、幸福になるための最も大切なことをシンプルに教えてくれます。
【長編・ショートショート以外】星新一作品のおすすめ3選
【長編・ショートショート以外】星新一作品のおすすめを紹介します。
ブランコのむこうで
最初に紹介するおすすめの【長編・ショートショート以外】星新一作品は、「ブランコのむこうで」です。
- 夢の中で大冒険
- たくさんの人の夢の中に入ってゆける
- 幸せのためのヒントがある
ブランコのむこうでのレビューと評価
大勢の人たちにつながった心の中の冒険
『ブランコのむこうで』は、星作品に珍しい長編ですが、子どもにも読みやすい作品です。学校帰り、少年が自分とそっくりの男の子についてゆくと、いろんな人たちの夢の中に迷い込んでしまいます。
彫刻家のおじいさんとの出会いが印象的です。おじいさんは立派な人生じゃなくても幸せに生きるためのヒントを教えてくれます。
自分の心に入っていくと、大勢の他人の心に入ってしまったとも取れる不思議なお話です。しかしそれは思想家ユングのいう“集合無意識”にも通じるテーマであり、大人にも読み応えがある作品だと言えます。
声の網 (角川文庫) 文庫
次に紹介するおすすめの【長編・ショートショート以外】星新一作品は、「声の網 (角川文庫) 文庫」です。
紙の本のページ数 | 270ページ |
---|---|
Kindleのファイルサイズ | 1465kb |
ジャンル | 連作短編 |
出版社 | 角川書店 |
紙の本の初版年 | 1970年 |
- 12編のショートストーリーが1つに繋がる連作短編、星新一のショートショート以外では1,2を争う人気作
- 本作の声の綱・電話網は今のインターネットを予見するもので、現代社会とも深くつながっている
- ショートショートに較べ文学作品のような描写力が光り、星新一の知られざる才能が発見できる
「声の網 (角川文庫) 文庫」の特徴
「声の綱」は連作短編集でありながら、星新一の名人芸であるショートショートの数ある傑作選に並ぶ人気を誇っています。
その一因は、1970年に書かれた本作がAIの支配する現在のネット社会の恐ろしさを言い当てている点にあるでしょう。
他の作品同様、豊富な知識に裏打ちされたSF作家としての洞察力がこの作品では充分に発揮されています。
夢魔の標的(新潮文庫) Kindle版
次に紹介するおすすめの【長編・ショートショート以外】星新一作品は、「夢魔の標的(新潮文庫) Kindle版」です。
紙の本のページ数 | 265ページ |
---|---|
Kindleのファイルサイズ | 575kb |
ジャンル | ホラー長編SF |
出版社 | 新潮社 |
紙の本の初版年 | 1977年 |
- ホラーの定番・人形がしゃべり出すトリックが謎を呼ぶ、腹話術師の悪夢のようなストーリー
- なぜ、多くの人が主人公と同じ夢を見るのかなど冒頭からミステリーとして読者を大いにひきつける
- 星新一の作品として珍しい長編作、ショートショートとは大きく異なる作風が味わえる
「夢魔の標的(新潮文庫) Kindle版」の特徴
勝手に話し出した腹話術師の人形「クルコちゃん」が一体何者なのかという謎が次第に恐怖を誘うSF長編ホラーです。
かわいい人形を通じて、AMAZONのアレクサなど現代のAIにも共通する不気味さを漂わせているのは星新一ならではの先見の明でしょう。
星新一ショートショートセレクション
おすすめの「星新一ショートショートセレクション」を紹介します。
星新一ショートショートセレクション(全15巻セット) 単行本
- ヤングアダルト(小学5年生以上)向きの作品を選んだセット
- 全て和田誠が書き下ろしたイラスト
- 子供にも読みやすい字の大きさ
星新一ショートショートセレクション(全15巻セット) のレビューや評価
1000編以上のSFショートショートの中から厳選されたちょっと大人の作品集です。
時代を経てもなお現代の子供たちに響くものがあるようで、面白い、夢中といった声が散見されます。
製本がしっかりしてるので手元に置いておくにもオススメです。
星新一の世界観にどっぷりハマりたい方は是非!
星新一ショートショートセレクション(全15巻) 収録内容


